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『ニューノーマル時代の仕事と介護の両立セミナーレポート①』〜仕事と介護の両立支援、進化のための課題とは?介護経験のある正社員4233人のデータ分析から見えてきたもの〜

『ニューノーマル時代の仕事と介護の両立セミナーレポート①』〜仕事と介護の両立支援、進化のための課題とは?介護経験のある正社員4233人のデータ分析から見えてきたもの〜

弊社リクシスでは、2021年2月2日、『ニューノーマル時代の仕事と介護の両立』をテーマにオンラインセミナーを開催しました。セミナーでは、膨大な介護経験者の調査分析から新時代の支援策を探っておられるリクルートワークス研究所 主任研究員の大嶋寧子(おおしまやすこ)様と、グループ全体にまたがる全社規模での従業員支援を推進されているハウス食品グループ本社ダイバーシティ推進部部長 加藤淳子(かとうじゅんこ)様のご講演、そして弊社代表取締役 佐々木裕子(ささきひろこ)、弊社チーフケアオフィサー木場猛(こばたける)を交えた4人のディスカッションから、企業はどのような両立支援を目指すべきかを浮き彫りにしました。豊富なデータ分析に基づく本質的な「ファクト」と、実際の「現場」からしか見えない課題と解決策について、企業人事の皆様に有用な知見を提供しています。

(1)【総論】
『ニューノーマル時代の仕事と介護の両立支援』
講演者:佐々木裕子(弊社 代表取締役社長 CEO)

(2)【講演及び対談①】
『仕事と介護の両立支援、進化のための課題とは?』
講演者:大嶋寧子氏(リクルートワークス研究所 労働市場・キャリア研究センター 主任研究員)

(3)【講演及び対談②】
『2025年問題への備えとして企業人事部が果たせる役割』
講演者:加藤淳子氏(ハウス食品グループ本社ダイバーシティ推進部 部長)

(4)【ディスカッション】
『ニューノーマル時代、企業はどのように従業員の支援をすべきか』
パネラー:大嶋寧子氏、加藤淳子氏、弊社・佐々木裕子、弊社・木場猛

本レポート①では、(1)(2)をご紹介します。

『ニューノーマル時代の仕事と介護の両立支援』
佐々木裕子(弊社 代表取締役社長 CEO)

皆様、本日はお忙しい中、本セミナーにご参加いただきまして誠にありがとうございます。リクシスの佐々木でございます。今日は、リクルートワークス研究所と共催で「ニューノーマル時代の仕事と介護の両立支援」はどうあるべきかというテーマで皆様とご一緒させていただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

はじめに、セミナー開催の背景について簡単にご紹介させていただきます。実は弊社とリクルートワークス研究所様とはこの1年近く「ニューノーマル時代の仕事と介護の両立支援」というテーマについて議論を重ねてきました。その中で、今コロナ禍に見舞われていること、団塊世代が後期高齢者になり始めていることなど、様々な角度から「仕事と介護の両立支援」というテーマに大きなパラダイムシフトが起きているということで、今回のセミナー開催に至りました。

コロナ禍で大きく変わったマインドシェア

今回ご参加されている皆様も、昨年からのコロナ禍によって、仕事やキャリア、そして家族に対するマインドシェアがずいぶんと変わったと感じていると思います。

内閣府のアンケートでは、年代を問わず過半数が仕事より生活を重視するように変わったことを示しています。皆様の会社の従業員の方たちも同じように、年代を問わず仕事と生活のバランスを取っていこうという意識が相当強くなっているのではないでしょうか。

また、私どもの調査では、コロナ禍の中で、高齢の親について考える頻度が急速に増えていることがわかっています。この1年で、親の介護をまだ先だと思っていた人たちが当事者意識を持つ環境へと急速に変わってきているのです。

さらに、「どの世代にも仕事と介護を両立している従業員がいる」という現実がデータとして見えています。年老いた親や祖父母といった要介護認定者をサポートしながら自らの仕事をするような日常が20代、30代の若手の中にも浸透し始めていると言えます。

目前に迫る「2025年問題」

加えて、人口のボリュームゾーンである団塊世代が本格的に後期高齢者世代に突入する「2025年問題」が目前に迫っています。誰もが当たり前のように、仕事と介護を両立させなければいけない時代がすぐ目の前にやって来ているわけです。

こうした大きな環境変化が起こっている中で、本日は、講演者としてリクルートワークス研究所の大嶋寧子(おおしまやすこ)様とハウス食品グループ本社ダイバーシティ推進部の加藤淳子(かとうじゅんこ)様をお迎えし、仕事と介護の両立支援はどうあるべきかを一緒に考えていければと思っています。何をどう変えなければならないか、という議論を始める前には、これまでは何が有効で、逆にどこに課題があったのか、という情報の棚卸しが大切になってきます。

本日、1つ目の講演をしていただくリクルートワークス研究所の大嶋寧子様は、介護経験者のデータからこれまでの課題を分析し、介護支援策の進化の方向性を探っておられます。大嶋様のご講演からこれまでの課題の整理を皆様と一緒にできたらと考えております。それでは大嶋様よろしくお願いいたします。

『仕事と介護の両立支援、進化のための課題とは?
〜介護経験のある正社員4233人のデータ分析から〜
大嶋寧子氏(リクルートワークス研究所 労働市場・キャリア研究センター 主任研究員)

リクルートワークス研究所の大嶋と申します。私からは、正社員の介護経験をした方のデータを分析した結果から明らかになったことをご紹介できればと思っております。

世界に類を見ない高齢化

仕事と介護の両立がテーマになってきたのは最近のことではありません。これまでも長く、企業の皆様はいろいろなことを悩んできたはずです。また、研究という意味でも非常に多くの知見が蓄えられてきたと思います。

そうした中、なぜ今、もう一度このことを考えなければいけないのかというと、2021年というタイミングが大きいと思っています。先ほど佐々木様から2025年から団塊世代の後期高齢期入りが本格化するとのお話がありましたが、厳密には2022年からそこに足を踏み入れ始めると言えます。

ご存知の通り、75歳以降になると人口に占める要支援、要介護の認定者の割合は顕著に上昇していきます。まさにこれから、親や親族の介護に直面しようとする介護予備軍が、急速に社会の中に増えていく、そんな時期にあるのです。

介護経験者4233人の調査から見えてくるもの

介護予備軍がさらに増えていくこのタイミングで、社会、企業、そして個人は本当に適切な備えができているのだろうか。そのような問題意識から昨年リクルートワークス研究所では、インターネットモニター調査で介護に直面した4000人強の正社員の方に調査を行いました。

その分析結果を踏まえて、本日はご紹介させていただきます。

介護発生前に、重要な情報を持っていない

調査結果を見ると、驚くことに、多くの方が介護発生前に介護に関わる重要な情報をあまりに手にしていないことがわかります。

例えば、加齢と共にフレイルと言われる心身の活力が低下した状態になった時、適切な介入が重要だという知識については、知っていた人は約4割に止まります。また、介護と仕事の両立には介護保険等のサービスや連携をしながら介護の体制を作ることが大事ですが、こうしたことについても知っていた人は約4割でした。

介護発生前の意識が「その後」につながる

データから見えた大事なことは、介護と仕事の両立は、既に介護の発生前から起きているということです。

例えば介護が発生した初期の体制は、介護発生前の「自ら介護をする意識」とか、「誰との関係性」で介護が発生したのかとか、そういった介護発生前の状況と密接に関わっていました。また、介護発生後初期の介護体制は、その後の介護体制と深い関係がありました。つまり、会社が従業員の介護に気が付いた時点が始まりではないのです。

3つの時点の関係性を時系列で見る

今回お話をさせていただくのは、「介護発生前」「介護発生後、初期時点」「現在(調査時点)」という3つの時点の関係性を構造的に捉え、介護発生前の会社の支援、個人の状況、それから自分自身の意識が、どのようにその後の介護離職や介護疲労に関わっているのかを分析した結果です。

下図で「現在」のところに「介護離職」と書いてありますが、これにはその手前の「介護発生後、初期時点」での介護体制や働き方が関わっています。さらに、「介護発生後、初期時点」の介護体制や働き方は、「介護発生前」の「自分が介護をしなければ」という意識や必要性はどうだったのか、個人としてどのような備えをしたのか、あるいは会社はどんな種類の情報を提供したのかと関わります。

介護発生前の会社の支援は必ずしも寄与しない

分析から明らかになってきたことは、介護発生前の会社の支援は、仕事と介護を両立しやすい介護体制の構築を必ずしも促せてはいないということです。次の図で示しているのが、介護離職と介護体制の関わり方です。

介護離職にその前の介護体制がどう関わっているかを見ていくと、驚いたことに「介護サービスの利用」自体はその後の「介護離職」や「介護疲労」と統計的に有意な関わりを持っていませんでした。

一方で、介護サービスを利用したり、介護を委ねる親族と連携する中で、自分が主たる介護者にならずに介護を委ねる体制を構築できていることは、介護離職の抑制に大きく関わっていたと言えます。

ではなぜ「介護サービスの利用」自体は「介護離職」と統計的に意味のある関係性を持っていなかったのでしょうか。

これは、「介護サービスの利用」そのものは広く普及していて、単に「利用しているかどうか」だけでは差が出にくくなっているのではないかと思われます。

次に、「介護を委ねる体制づくり」に対して会社の支援はどのように関わっているのかについてお話しします。ここでも「会社の支援」は「介護を委ねる体制づくり」に対して必ずしもプラスに効いていませんでした。係数は小さいのですが、セミナーや上司との相談はむしろマイナスの関係性が見られました。その一方で、資料の提供といった形での会社の事前支援が「介護サービスの利用」を促しているという関係性がありました。

会社の支援が「介護を委ねる」体制づくりを促せない理由

ここで、なぜ、介護発生前の会社の支援は「介護を委ねる体制づくり」に関係性を持てていないのかという大きな疑問が出てきます。

一つ考えられるのは、そもそも「介護を委ねられない人」、もしくは、「委ねられないと考えている人」が、介護が発生する前に会社に相談し、支援を受けている可能性があるということです。

そこで、介護発生前の時点で「自分が介護を担う」という意識が低いなど、介護を委ねられないと最初から考えていないグループに絞って分析してみましたが、おおむね同じような結果が得られました。

以上を踏まえて考えると、分析からは介護発生前の会社の支援が、自分で介護を抱え込みがちな社員に対して、介護体制をうまく作るような働きかけができていない可能性が見えてきます。場合によっては、相談してきた社員が主に自分で介護を担う前提で、会社が情報提供をしてしまっている可能性もあると思います。

「会社の支援」は介護発生後の「働き方の見直し」に関係

分析ではもう一つ、介護発生前の会社の支援は介護発生後の働き方の見直しと結びついていることも分かりました。ただし、会社の支援は働き方の見直しに伴い発生する不利益とも結びついており、その後の介護離職とも有意に関係していました。

ここでも、なぜ介護発生前の会社の支援は、働き方の見直しを通じて、最終的に介護離職を防止できていないのか、という疑問が出てきます。

仕事と介護が両立できる職場を作りたいと考える多くの経営者や人事部門は、介護離職や介護疲労を防止するために様々な制度を準備し、周知を図ってきました。しかし、制度を運用する現場では、介護のために働き方を見直すことが、嫌がらせを受けたり、職場のキャリアの展望を持ちにくくなるなどの不利益を引き起こしやすい状況が残っているのではないか、と考えています。

情報提供は大事だが中身が問われる

介護発生前の状況は、介護発生後の初期体制やその後の介護と仕事の両立に関わってきます。ですから、介護に直面する社員への情報提供が重要であることは間違いないでしょう。

しかし、会社の支援が介護離職や介護疲労の防止という点で、不十分なものになってしまっている可能性があります。単にどういう制度があるとか、あるいは介護保険がどういうサービスがあってどうしたら利用できるかといった外形的な情報提供になっている可能性があるのです。

介護離職や介護疲労を防ぐためには単に情報提供をすればいいわけではなく、介護サービスや親族との協力を通じて、介護を委ねる体制をいかに作るかという観点からの働きかけや具体的な知識を伝えることが必要ではないかと考えています。また、管理職自身が「介護は自分でやるもの」とか「身内でやらなければいけない」といった意識を脱せるようなリテラシーを持つことも非常に重要になってきます。

企業としては社員の介護体制づくりまで介入するのはなかなか難しいという声も耳にします。それでも、会社が介護体制の構築に介入する余地や必要性は非常に大きいのではないかというのが私の考えです。

例えば、次の図は2019年に行われた介護に関する親と子の意識調査の結果です。

左のグラフは40代、50代でまだ介護をしたことがない人が、自分の親が要介護状態になったら誰が介護するのが良いと思うかと聞かれた結果です。ここでは、約6割の方が自分が介護すると回答しています。一方、右のグラフは、親世代に当たる60代、70代に自分が要介護状態になったら誰に介護して欲しいかという回答です。これを見ると、介護サービスの職員にやってもらいたいと回答している人が一番多いのです(49.6%)。

高齢の親世代よりも、子ども世代が自ら介護を抱え込む意識を持っている可能性があることは注意しておいたほうがいいのではないでしょうか。自分の親に幸せな老後をすごしてほしい、高齢期も幸せに暮らしてほしいという願いが、自ら介護するという意識に結びついていると考えられます。

会社としては、本当にそれは正しいのか、専門知識をもつプロの手を借りたらどうなるのか、そういったことも含めてきちんと情報提供をしていく。そういう余地があるのではないかということが、このデータから見えてくることです。

さらに、もう一つ強調したいのは、介護のための働き方の見直しが職場での展望や居場所の喪失につながらないような働き方や評価の方法をもう一度考える必要があるのではないかということです。

下の図は、最初の介護が始まった時点で、働き方の変更をした人で不利益な経験をした人に対して、時間ではなくて、働きで公正に評価される雰囲気があったかどうかを調べたものです。これによれば、時間ではなく働きによって公正に評価されていたと答えた人で、不利益を経験した人は顕著に少ないという状況が見て取れます。

ここまで見てきたように、人事として仕事と介護の両立のための制度を作るだけではなく、全社的にかつ、それぞれの現場の状況に合わせて、どのように介護と仕事の両立を可能にしていくのかを考えなければなかなかうまくいかないのではないかと思っています。私からの報告を以上で終わります。ご静聴、ありがとうございました。

佐々木:大嶋さんありがとうございました。この論文が発表された時にもお話を伺って衝撃を受けましたが、今日改めてご講演を伺い、驚きの事実であることを再確認いたしました。例えば、事前に上司に相談しましょうとか、介護の制度を使いましょうとか、セミナーなどで介護保険制度がありますよとか、ハンドブックの配布などを用意されるといったことが、今までの仕事と介護の両立支援の王道だったと思いますが、大嶋さんのデータを拝見すると、今の状態ではやればやるほど従業員の負担が多くなることも結構多いという解析ですよね。

大嶋:そういう関係性があるということですね。

佐々木:それは、仕事を休んで自分で介護をする人を支援するというコンセプトがミスリーディングになっているということでしょうか?

大嶋:はい。社員は介護を自分で抱え込むものだと思い、会社はその抱え込む意識がある社員に対する支援をしている可能性があると思います。介護を抱え込まないような支援ではなくて、抱え込んで自分でやっていくことを支援する制度になっている可能性が見えてきたということです。

佐々木:管理職の方を含めて、介護に直面している方が当たり前のように仕事ができるような選択肢もあることを知っているかどうか、このリテラシーによって、介護中の従業員の方々の処遇や企業の中での関係性が変わってくるということでしょうか?

大嶋:そうですね。管理職の方は親切心もあって会社のことは心配しなくていいよ、というコミュニケーションを取ってしまいがちです。そうすると社員の側は、自分で介護をするという方向性が強くなってしまう。そうではなくて、どうやって今まで通り働き続けていくか、それを支援する評価のあり方はどうかというコミュニケーションが必要なのではないかと感じます。

佐々木:ありがとうございました。ぜひ、そういった意味では企業の現場でこういった課題をどんなふうに受け止めてどんな施策をやっていけばいいのかを議論する必要があると思います。

 

『ニューノーマル時代の仕事と介護の両立セミナーレポート②』〜企業はどのように従業員の支援をすべきか〜はこちらからお読みいただけます。

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