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【イベントレポート③】介護プロから見た従業員の介護負担を減らすための3つのポイント

【イベントレポート③】介護プロから見た従業員の介護負担を減らすための3つのポイント

 

※本イベント案内ページはこちら(現在申込は終了しております)→ https://event.lcat.jp/


イベント後半は「プロフェッショナルトーク」と題して、リクシスCSOの酒井穣とCCO(Chief Care Officer)の木場猛の2人が登壇。介護プロから見た従業員の介護負担を減らすための3つのポイントと、人事に求められる3つのポイントについて紹介しました。

【登壇者プロフィール】

<酒井穣>

著書「ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由」
慶應義塾大学理工学部卒。Tilburg大学経営学修士号(MBA)首席取得。商社にて新規事業開発に従事後、オランダの精密機器メーカーに光学系エンジニアとして転職し、オランダに約9年在住する。帰国後はフリービット株式会社(東証一部)の取締役(人事・長期戦略担当)を経て、2016年株式会社リクシスを佐々木と共に創業。自身も20年に渡る介護経験者であり、介護メディアKAIGO LAB編集長・主筆、新潟薬科大学・客員教授なども兼任する。NHKクローズアップ現代にも介護関連の有識者として出演。

<木場猛>

介護福祉士。東京大学文学部卒業。2001年の在学中から現在まで20年近く、現場の介護職として在宅介護に携わる。2018年株式会社リクシスに参画。介護を続ける中で学んだことは、雨が降ったら傘をさすように困った時には当たり前に支えがある社会づくりの必要性。

 

■ポイント1:介護には質がある

介護プロから見た従業員の介護負担を減らすための3つのポイント、1つ目は「介護には質がある」ということです。

基調講演で佐々木先生が紹介されたグラフに触れながら、以下のように解説しました。

酒井「サンプル数がまだ不十分かもしれませんが、『孤独』は死亡や要介護のリスクを1.7倍にするという調査があります。佐々木先生のおっしゃっていた、精神的機能は成長し続けていても、社会的機能だけが大きく落ちることへの警鐘として意識したいところです。孤独を感じることなく、誰かに必要とされている、楽しいことがあるなど、社会に関わること自体が非常に大事だと、先生の講演を伺って改めて確信しました」さまざまな企業で研修などを行う際、「介護とは何か?」という問いに対して、「下の世話」と捉えている人が非常に多いことに酒井は警鐘を鳴らします。

酒井「みなさん、自分のスケジュールを見てください。会議が多いですよね? でも、みなさんの仕事は会議ではありません。何らかの目的のために会議があるわけで、会議はあくまで手段でしょう。これと同様に、介護専門職にとっての『下の世話』は、それが仕事だと言われると少し違うはず。佐々木先生の話にあった『社会的機能』をどうやって下げずに保つのかが、介護という仕事の大きな部分だと実感しています。これが『介護の質』の話であり、私が母親に対してできなかった最も大きなことだと強く思っています」

酒井が考える介護とは、「心身に障害を負ったとしても、『生きていて良かった』と感じられる瞬間を創造する仕事」。それを実現するために、介護専門職の方は、一人前になるまで10年と言われるくらい、専門性を高めます。そんな彼らに関わってもらうことで、社会的機能をできるだけ維持し、要介護や死亡リスクを下げて行くべきという話なのです。従業員が介護と仕事の両立を考える際、こうした高品質な介護ができると、介護の負担が下がります。結果として、企業側も介護離職のリスクを減らすことができるのです。木場は「質の高い介護」を行うのに必要なポイントについて語ります。

木場「介護対象者のことをどれだけ理解しているかが大事です。佐々木先生の講演の中で、認知症は環境不適合によって症状が出るという話がありました。不適合にさせないためにも、本人が何を望んでいるのか、どんな生活をしたいのかを知っておきたい。専門職だからといって、何でもかんでも上手くできるわけではないですから」

 

■ポイント2:タイミングが命

2つ目のポイントは「タイミングが命」です。一般的に私たちは、先のことが分からないと「様子見」をしやすくなります。しかし介護においては、この「様子見」は止めたほうがいいと酒井は言います。

酒井「様子見、つまり放っておくと、介護の負担はどんどん上がります。関わりが遅くなればなるほど大変になるのが介護の特徴だからです。様子見をしている間にも状態が悪くなり、孤独な時間が長くなったり、自分らしく生きられなくなったりするためです。寝たきりや車椅子が必要になってから関わるのでは、完全に遅い」

大切なのは、まずは「要介護認定」を早めにすること。認定されると法的に介護のプロと結びつくことが可能になります。親の意見を聞かずに、親の人生について重要な決断を行うことになるケースが多いため、介護が初めての人は先送りにしがちです。しかし「先送りにすると本当に大変になるので、少しでも前倒ししてほしい」と酒井は語ります。

木場は実際に現場で見た80歳前後の男性の事例を紹介しました。木場が介入した段階で既に寝たきりだったという男性は、大きな病気はないものの、栄養食や栄養補助の飲み物を1日に100mlほどしか口にできない状態だったそうです。

木場「普段は娘さんが様子を見に来ていたそうですが、親御さんが介護を必要としている状態なのかどうか、当事者だと判断できないのだと思います。排泄の管理や、自宅に訪問した際に『水分を取ってくださいね』と伝えることはできます。でも、できることは非常に限られてしまいます。誰か1人でも専門職や他人の目があれば……と思わずにはいられません」

とはいえ、早めにプロを呼ぶ、準備するなどの行動を起こせる人はなかなかいません。佐々木先生の講演でも、定年退職によって一気に社会的機能が失われる話がありました。その時点では介護ではないので、介護専門職の意見を聞く機会は、普通の人はまず持たないでしょう。でも本当はそのタイミングでのケアが必要なのではないか、と酒井は言います。

LCATには「この状態を要介護対象だと思いますか?」というような質問が出題されますが、正解者はほとんどいません。正解より遅めの状態を「要介護認定」としている人が多いのが現状です。リクシス代表の佐々木も、当初は高齢の両親の介護について不安を抱えていました。

佐々木「私の母は現在要支援2の認定を受けています。要介護認定を受ける前に、木場にアセスメントに行ってもらいました。要介護認定の申請をする前から介護のプロが関わったケースは稀ですが、非常に意味があると感じました。これを多くの人に届けたいと思ったのが、リクシス創業のキッカケでもあります」

 

■ポイント3:介護は忌避感との戦い

介護の知識は、基本的にあればあるほど良いと言われています。しかし、まだ介護が始まっていない段階で、介護の勉強をする人は少ないのが現状です。それはなぜなのか。これが3つ目のポイント「介護は忌避感との戦い」です。

佐々木「やっぱり向き合いたくないのだと思います。これだけ高齢化社会になって自分もいずれは必ず当事者になるし、必要な知識のはずなのに、ギリギリにならないと動かない。これは私自身もそうでした。両親が80歳を超えて、ようやく介護問題に向き合い始めましたが、早めの準備が必要だと分かっていたら、5年前から準備できていたかというと、おそらくやっていなかったと思います」

人事部門の方は、社内で介護離職者が出始めていて自分事になっているため、介護の知識を勉強している人は非常に多い印象があります。しかし一般の従業員は、いくら「もっと介護について勉強すべきだ」と訴えても、おそらく動かないだろうと酒井は語ります。

酒井「そもそも親との会話が少なくなっている中、久しぶりに会って遺産の話なんてできないですよね。だから介護のプロに来てもらって、代わりに聞いてもらうことが大事なのです」

介護のプロである木場も、自身の親と介護の話をしたことはないと言います。それを受けて佐々木は「自分だけの問題ではなく、家族と話さなければならないのが、介護に対する忌避感の問題を複雑化させているのではないか」と語ります。

 

■人事に求められる3つのポイント

では人事はどうすれば良いのでしょうか。その問いに対して、酒井は「介護に取られる時間」に関するLCATのデータを紹介しました。

縦軸が人数、横軸が介護に取られる時間を示しています。セグメントを分けると人数の多いゾーンは、制度を少しでも使いやすくする、介護が必要になったら早めに人事部の担当者に連絡を入れるなど、仕組みで対応できるのでは、と酒井は言います。

酒井「本人が申し出をしづらいケースもあるので、上司経由で連絡を入れられるよう、また、そうしたことを管理職研修のカリキュラムに入れるなど、仕組みで対応できる部分はする。個別対応が必要なゾーンは、そもそも難易度が高いのが現状です。まずは従業員の介護負担を正しく理解することが重要。その上で介護に取られる時間を減らす支援を行う。これが真の両立支援だと考えています」

早めに対応できれば、介護負担が重くならずに済む可能性が高まります。早めに行動する従業員が増えれば、全体として介護に取られる時間を減らすことができるのは明らか。では実際に、従業員にどの程度の知識を持ってもらうかのステップを考えていきます。人事の経験も長い酒井としては、しばらくは両立支援の制度設計に集中し、中長期的には早めに知識を持ってもらう施策に取り込むのが良いのでは、と語ります。

酒井「自分の知識が無ければ、どういうタイミングで、どの専門家に相談すれば良いか分かりません。コンプライアンス研修のように、人事部としては絶対にやらなければならないものの、従業員は受ける意欲が低い研修がありますよね。あれと同じで、いざというときに『あの研修を受けておいて良かった』と思ってもらえるためには、おせっかいでも淡々と何度も積み重ねていくしかありません」

木場から見た人事に求められる3つのポイントは、以下の通り。

①おせっかいが必要

②従業員の状態や相談内容を評価しない

③とにかくプロにつなぐ

1つ目、従業員にとって人事のみなさんは、介護離職の文脈では支援者の一員です。介護に関する話題は、従業員からはなかなか表に出てきません。支援者としてのおせっかいが必要なのです。

2つ目は、さまざまな支援につながる入り口は人事部であることが多いため、相談内容をジャッジしないことが重要です。多少知識を付けても、相談に来た人に対して、相手の介護への対応についてあれこれ評価をしないよう、注意が必要です。

3つ目、私たち介護の専門職は、1人では責任を負いません。失敗したときのダメージが大きく、ひとりの人間の人生を左右することになるからです。同様に、人事部や会社の中だけで、従業員の人生を左右する部分の責任を負うのは非常に大変です。なるべくプロにつなげて責任を分散させてください。「私たちも従業員の方々を手助けするチームになりたい」と木場が語り、プロフェッショナルトークは終了しました。

 


 

介護の知識を身につけることは、日本にとって今後基本的なリテラシーにしていかなければならないのでは、と佐々木は言います。一方で、向き合いたくない気持ちが大きいのも全世代・世界共通のこと。

佐々木「そこを突破していくには『おせっかい』が必要です。誰がおせっかいするのが最も効果的なのかを考えると、企業の人事の方々なのではないかと私たちは考えています。

企業にとっても、本人、家族にとってもメリットになる、かつ強制力を効かせることができ、ある程度の人数をカバーできる仕組みは、人事以外にはほとんどありません。企業人事の役割は、今後日本の介護リテラシーを上げていくうえで、とても大事になってくるはずです」

老いていくことが怖くない国を作る――リクシスの旅路はまだ始まったばかりです。今回のような機会を今後も設けて、企業のみなさまとディスカッションさせていただければ幸いです。